5月24日(土)、2025年度最初の企画展「大津英敏展 ―家族へのまなざし―」の開催を記念して、洋画家・大津英敏先生と、

美術評論家で武蔵野美術大学客員教授でもある川崎市立岡本太郎美術館館長の土方明司氏によるギャラリートークが行われました。

 

 

 

 

最初に当館館長より、ご来館いただいた皆様へ感謝の意をお伝えし、美術館の概要を簡潔にご説明いたしました。

 

 

 

 

その後、対談に参加されるお二人について簡単にご紹介し、続いてお二人に進行をお任せいたしました。

 

 

 

 

まず最初に、大津英敏先生がご自身の生い立ちや画家としての経歴について紹介されました。

 

 

 

 

先生は1943年、お父様が軍事飛行場の建設に携わっていた関係で熊本にて誕生されました。

しかし、戦時中という事情もあり、生後わずか数日で一家は福岡へと移り住まれ、その後、大牟田市で幼少、少年時代を過ごされました。

 

1963年。大津先生は東京芸術大学絵画科油画専攻入学します。

大学では、山口薫先生をはじめとする素晴らしい教授たちから多くの影響を受けたことを語られました。

 

山口先生のクラスでは、当館で企画展作家である佐藤泰生先生や酒井信義先生をはじめ、奥村光正氏、伊藤晴子氏など、優れた才能を持つ同期に恵まれていたそうです。

 

 

 

 

卒業後は大学院に進まれましたが、1968年5月19日の誕生日に、恩師である山口先生が亡くなられ、非常にショックを受け、不安を感じられたと話されました。

それでも、穏やかな性格である自分を奮い立たせるために、とにかく団体展への出展を続けることを決意し、描き続けたそうです。

 

 

当時は抽象絵画が勢いを持っていた時代で、具象・写実絵画が否定されていたような時代だったと、土方氏は説明しました。

 

 

 

 

しかし、大津先生の師であった山口薫先生は、戦前から一貫して具象表現を追求されており、同じく東京芸大教授であった林武氏や牛島憲之氏とともに、国際形象派展(国際形象派)に参加されていた方でした。

この運動は、20世紀中頃に日本の洋画家を中心に展開され、形象(かたちや姿)を重視しながら、具象と抽象の調和を目指した作品を追求するものでした。

師らの参加したこの運動に深く感銘を受けた大津先生は、具象絵画を中心に活動を続けられ、1973年には独立美術協会の会員に推挙されるという節目を迎えました。

 

 

 

土方氏は、山口薫先生について特に関心を示し、その影響についてさらに詳しく質問されました。

 

 

 

 

大津先生は、山口先生が絵肌を通じて本質を訴える作品を目指されていたことが、大きな学びであったと語り、その姿勢が若い画家たちに共感を与えたと振り返りました。

 

 

その後、フランスでの滞在を通じて新しい具象絵画の流れに触れるなど、多岐にわたる経験が語られました。

 

 

1979年に家族と共にフランスに渡った大津先生は、現地の生活を通じて多くの学びを得ます。

 

中でもバルテュスとの出会いは、先生に大きな影響を与えたと語られました。

 

 

 

 

先生が野見山暁治氏から借りていたアトリエの近くのレストランには、オーナーの友人であったバルテュスの作品が50余点ほどあったそうです。

 

 

パリでの経験は、作品作りだけでなく、家族をテーマにしたシリーズの創作にもつながり、その一環として帰国後制作された「KAORI」が安井賞を受賞するに至ったのです。

 

 

 

さらに、大津先生はご自身の作品について、日本絵巻の阿弥陀の来迎図からもインスピレーションを得ていることを話されました。

 

この影響は、人物が空間に浮かぶような独特の表現として現れており、その非現実的でありながら深い精神性を感じさせる描写に通じています。

 

 

パリの地に降り立ったお孫さんが、その石畳の路上をかつての娘さんのように触れている様子を空間に浮かべ描いた《悠か》

 

 

 

 

土方氏は家族をテーマにした大津先生の作品について、その背景や思いを深く聞き取りました。

 

 

 

 

 

大津先生は、家族は自身にとって最も重要なテーマであり、作品を通じて家族や人間同士のつながりを表現していきたいという思いを共有されました。

 

 

家族をテーマにした作品の始まりともいえる安井賞受賞作《KAORI》(国立近代美術館蔵)の前で想いを語られる大津先生

 

 

最後に、美術を志す若者たちへのメッセージとして、大津先生は「絵を描くことは生きること」と述べ、自身の存在意義を考えつつ他者と対話を重ねることの大切さを語られました。

 

 

 

また、今回のギャラリートークには、福岡県八女市から田崎廣助美術館の館長・持丸末喜さんと学芸員の丸山愛さんがわざわざお越し下さり、先生よりご紹介がありました。

 

 

 

八女市は大津先生のお母さまのご出身地であることをお話される田崎廣助美術館の持丸館長。

 

 

充実した一時間が幕を閉じ、参加者の皆様の笑顔に包まれながら今回のギャラリートークも無事終了いたしました。

 

 

 

 

ご来館いただいた皆様には心より感謝申し上げます。

 

なお、大津英敏展は6月24日(火)まで開催しております。パリの風景を描いた作品群に込められた、家族への深い愛情と日常の優しい時間をぜひご堪能ください。